Dragon

ー竜(ドラッヘル)調査報告書ー

生態

大空の支配権をほしいままにする謎多き知的生命体。

強者と戦い『喰らう』ことを種族全体の『趣味』としてスポーツ感覚で楽しむ。

人間の可聴領域外の高音を出せる独特の声帯から人語の発音を苦手としており、まるで歌うように会話する。

このため人間との意志疎通は容易ではない。

 

野生動物の一種とされているが、実態は幻想種。

この世界ではすでに失われた、言霊による霊威で超常現象を起こす『法定式(魔法)』によって身体を構築していて、

心臓は《竜珠》と呼ばれ、中では回路のようなものが蠢いている。

いわば『竜として顕在するための設計図通りに術式が常時発動している』状態。

 

この関係から生命維持のために膨大な法定式の元――霊素を必要とするのだが、

言い換えれば霊素が生命維持に必要な全ての動力源となっているので見た目に反し意外と食事量は少なく、

飢餓に陥ることは滅多にない。

 

霊素はこの世界に空気と共に満ちているのだが、人間には見ることも感じることもできない。

 

性格は一言で言えば武人。

無闇やたらと牙を剥くことはないものの、売られた喧嘩は喜んで買うし全力で叩き潰しにくるため、

コミュニケーションはとれるが礼節を守らないと死ぬことになる。

なぜかというと厳正な実力主義の戦争社会を形成しており、一生かけて研鑽する鍛錬大好きな修行バカのため。

 

その一方、同族異種族問わず、子供や老人や病人、妊婦は獲物と認識しない。

武装していて戦う意思が見える場合はその限りではないが。

 

更に、戦いにおいて勇気や闘志を示した者には、例えそれが同胞を殺した者であっても敬意を示す。

この関係で戦いの場で助けられることは『不名誉』なことと認識する。

 

なお、戦い好きではあるが、実は直接的な攻撃手段に訴えることは滅多にない。

彼らの目には、この世の事象はすべて言霊による霊素のゆらぎ(波動)によって構成されているように映る。

そのため、彼らは声を震わせ謳を奏で、正確には咆哮することで、ゆらぎを感じ取り感覚的に優劣を推し量るのである。

 

このため、戦いでは主に咆哮や飛行速度、もしくは起こす風(空気の振動)の強さなど精神面を重視して勝敗が競われる。

見た目に反してあまり声を上げず、暴れることもない、とされているのだが、

これは人間の可聴領域外の高周波数を用いて――いわゆるエコーロケーションのようなもので交流するため。

直接的な攻撃手段までとるのは、お互いにゆらぎを感じることができない場合――

主に人類などが武装して立ち向かってきた場合に限られる。

 

ただ、近年の若い個体にはそんな人類の影響で物理攻撃手段を好む者も少なくないとか。

そうした個体は竜社会でも「最近の若いヤツは…」という扱いらしい。

 

ちなみに、

飛び立った後は鳥類のようにほとんど翼をはばたかせず飛行するのだが、

法定式によって霊素に干渉し空気の足場を作ることで、

鳥類には真似できない急激な加速や旋回などアクロバティックな高速飛行も可能としている。

人間の目には、まるで空気を足場として蹴りつけ加速しているように見える。

その際は圧縮された霊素である、光の花弁が散る様子が一瞬だけ見える。

 

 起こす風の強さは体格が大きくなるにつれ上昇するため、

学術的には例の図のように風の強さで体格が分類される。

疾風級以下が小型種、突風級が中型種、暴風級以上が大型種。

 

なお、図は基本体形。他にも様々な体形の竜が存在する。

謳(うた)

竜は好戦的だが、暴力に訴えることは滅多にない。

代わりに声を震わせ謳を奏でることにより、感覚的に力の優劣を推し量る。

彼らに言わせてみれば、この世の事象はすべて言霊による霊素のゆらぎ(波動)によって構成されるもの。

彼らはそれを感じ取ることによってその者の為人と実力を悟るのである。

 

その声は様々な楽器の音色や、虫のさざめきや、ホーミーに例えられる。

 

多くの地域では「生後5年以下の幼年竜を親元から引き離すべきではない」と言い伝えられているのだが、

これは幼い頃に仲間の声を聞けない環境にいると声(謳のための高周波)の出し方を忘れ、

音痴になってしまうからである。

謳い方には一定の法則があり、以下に特徴的なもので人類が学術的に区分したものを紹介する。

 

 

 

【祈謳(オラシオン)】

ディンならば《輝ける絶世の剣(ドゥリンダナ)》、

ザハークならば《尊きものさえ鎖す鴉羽(エリネド・アルセーヌ)》と、

竜の二つ名の由来となった謳。いわゆる奥義。

 

発動する際に天に向かって吼え祈るような動作をすることからこう呼ばれる。

甚大な破壊をもたらすもの、尋常ならざる豊穣をもたらすものと多種多様な祈謳が存在し、

一つとして同じものは存在しない。

 

基本的に持てる力を存分に注ぎ込んで発動するものであるため代償も大きいらしく、

一度発動すると最低一週間から最長一ヶ月は休眠を挟む必要に迫られる。

中には命を代償として発動するものもあるとかないとか。

 

Doravoooore!!本編に登場する各竜の祈謳についてはOracion−祈謳解説書−を参照。

 

【重謳(ポリフォニー)】

竜の謳い方の中でも非常に特殊かつ稀有なもの。

いわゆる多重録音(オーバー・ダブ)のように複数の音階の異なる声を一頭で紡ぎ出す。

 

まるで単独でオーケストラを奏でているようなその声は万人が聞き惚れるほどのものであり、

言霊の乗った声を幾重にも響かせることからとりわけ強力な効果を発揮する。

ただ、特殊な謳い方であることに加え喉に負担がかかりすぎることから、

これを使いこなせる竜は非常に少ない。

 

【唱謳(ヘテロフォニー)】

複数の竜で多重に謳を紡ぐことで重謳に近い効果を生み出すらしい謳い方。

単体で消費する力は抑えられる反面、協調性が求められるためある意味難しいらしく、

こちらもおいそれと見られるものではない。

カンナカラ語

この世界は「言霊」が重要な意味を持ち、言葉を力に変えるエネルギーが強く働いてるので、より効率よく世界に訴えかける言葉を知っている者が「こうしたい」と口にすると本当に現実になる場合がある。

竜がまさにそれである。

 

竜の声はまるで笛や鈴や鐘などの楽器をかき鳴らしているかのような、オーケストラや讃美歌、あるいはホーミーに近いもの。 その実態は世界を書き換えるほどの言霊の暴風雨で、人間にはまるで歌っているように聞こえるため、それを比較的、分かりやすく視覚化するとこうなる。

 

例を挙げると、ディンは教会の鐘を幾重にも鳴らしたかのような声を上げる。

 

この言語はダーナ人やアラゴ人も現在進行系で使用しており、言葉の通じない竜の名前がなぜ分かるかというと、このカンナカラ語に変換しているからである。 

 ディンの場合、通称はオーディーンとなっているが、本当はヴォーダインかもしれないし、ヴォーディガーンかもしれないし、あるいはもっと別の、人間にはとても発音できない名前かもしれない。

 

ただ、竜の方も人間には発音できないことを理解しているためあまり気にしない。

寿命

竜はほぼ不死である。

正確に言うと、現時点の人間の技術レベルでは倒せるほどの兵器がなく、

竜同士も殺し合いを好まないのでほぼ寿命以外では死ぬことがない。

 500年くらい生きている個体が確認されており、それくらいは生きることが可能と言われている。

 

このため、放っておくと増える一方のように思われがちだが、

実は「一定の範囲ごとに一定の個体数を保つ」という特性があるのでそんなことはない。

増えそうになると共食いや縄張り争いなどで個体数を調整する。

これは俗に《闘月期》と呼ばれる。

 

逆に、減りすぎた場合は繁殖で個体数を調整する。

これは《蜜月期》と呼ばれる。

しかし、敵が少ない種族なので滅多に来ることはない。数年に一度のレベルである。

 

ちなみにこの大陸は、東西それぞれで100頭くらいが限界の個体数。

つまりこの大陸には少なくとも200頭の竜がいるとされている。

ただし、西側の一部地域などで比較的狙いやすい子竜を標的とした乱獲が横行しており、

生態系バランスが崩れつつある。

このせいで西大陸側の竜は特に気が立っており、

闘月期と蜜月期が同時に訪れようとしている緊張状態にある。

 

人間はいつの時代もロクなことをしないものである。

暴走

竜は短時間で霊力を使いすぎたり、周囲から霊素を吸収できない環境に長く留まり続けたりしていると、

体内の霊素が不安定になって自制がきかなくなってしまい、最終的に暴走する。

いわゆる過熱(オーバーヒート)状態に陥る。

 

この状態になると不要な部位を削ってでも身体を維持しようとしたり、

敵対者を滅ぼそうとしたりと見境なく暴れまわり、

甚大な被害をもたらすので早急に対処する必要に迫られる。

 

なお、強敵との対決時など激しい戦闘の最中でも、

まるで有終の美を飾るためと言わんばかりに自発的に暴走状態になることもあるという。

迷惑極まりない。

七度群れを変えて一人前

この世界の竜は『七度群れを変えて一人前』という慣習があり、成長期になるとすぐ親元を離れて強い群れを渡り歩くようになる。武士で言うところの奉公、あるいは武者修行に近い。

竜の家族というのは人間のそれとは異なり、道場、あるいはスポーツジムに近く、群れは安らげる場所というより、兄弟たちと切磋琢磨する場所、という認識。ディンとユーリグのように、親(群れの長)と子が全く似ていないケースが多いのはこのため。

 

また、諸事情で子を養えなくなった群れが、より強い群れへ養子に出すというケースも存在する。

 

とはいえ例外もあり、ディンが長を務めるハーキュリー一家は非常に珍しく、比較的人間の家庭に近い環境。そんなに苛烈な競争は起きない。

逆にザハークが長を務めるマガル・ハダル一家は典型的な竜の群れ。弱い子竜は容赦なく蹴落としていく。

斜線陣(エシュロン)

竜の集団は基本的に斜めに広がる『斜線陣』で行動する。機織りのように互いに交差するようにS字の旋回(スラローム)を繰り返すことで、相手に後方をとられても編隊僚騎がその後ろにつくことができるのである。

例えば群れに攻撃をしかけようとする竜が背後につこうとすると、後方の友軍騎が逆にその背後を取りやすい位置にくることになるというわけである。

竜はいつ頃生まれたのか

この世界の竜はある日突然歴史上に姿を現し、それ以前の記録が一切確認されていないため、『宇宙から隕石に乗って飛来した侵略者である』という一説が一部の学者の間でまことしやかに囁かれている。

 

本当かどうかは分からない。が、東大陸を統治するアシュレイ皇家の居城たる『白百合宮』には、その昔、竜と最初に接触した皇族関係者が残したというステンドグラスが飾られており、それには燃える星に乗って飛来する竜のような生物の姿が描かれている。

竜はどうやって飛んでいるのか

生態の項目やカンナカラ語の項目でも解説したように、言霊の力で霊素の力場を作ることで、我々の世界の法則では到底飛べるような構造ではない生態でも飛行を可能としているのがこの世界の竜である。

が、実はこの世界の重力が地球の半分以下、火星と同じくらいだから、という裏設定があったりなかったりする。

竜(特に雄)にとって角は『王冠』のようなもの。成長すればするほど大きくなる。自身の力と地位を示す大変重要な部位なので、これを差し出すというのは気前が良いどころの話ではない。

先祖代々のお宝をポンとくれるようなものである。

竜の油

竜の皮下脂肪から採れる油は植物性のものほどではないもののさらさらとしており、健康にも良いことから様々な使い道がある高級油として有名。浸透性、保湿・保護の効果が確認できることから美容での需要が高い。

ただし、搾油には相当な労力を要する。

 

なぜかというと、熱に対する耐性の高い個体が多いため相当な高温で長時間熱しないと油が融出されないためである。

その労力に見合う収入になるかというとそうとは限らなかったりするが、もったいないので竜便屋の大半は竜油の洗髪料を使っている。

竜の血&竜の呪い

東大陸にはこんな逸話がある。昔々、竜になりたい人々が徒党を組んで大量に竜を狩り、浴びるようにその血を飲んだ。そうすれば自分たちも竜になれる、竜の力を得られるのではないかと信じていたからだ。

数日は身体能力が劇的に向上するなど、常軌を逸した変化が見られたらしい。しかし、一ヶ月以内にはみな液状化して死んだそうだ。徐々に徐々に末端からスライムのように溶けていき、総じて苦しみ抜いて息絶えたとのことで、東大陸では《竜の呪い》と呼ばれ恐れられている。

 

この逸話にもあるように、竜の体内を流れているのは人間や動物の血とは異なるものである。竜の身体を動かすための特殊な体液で、調べたところによると栄養価が凄まじいらしい。具体的には強烈な栄養剤みたいなものである。

 

しかし、栄養剤ということで過剰摂取すればどうなるかは火を見るより明らか。そもそも、どうしてそれだけ栄養価が高いのかもいまだ解明されていないため、うかつに手を出すべきではない。

人を喰う行為について

竜は人間を喰う。毎年その被害報告が後を絶たない。

ただ、誰でも無差別に食べるわけではない。人間に限らず同族にも当てはまるのだが、彼らは相手への好意が深まれば深まるほど喰いたくなるという衝動を抱えている。

 

理由は解明されつつあるのだが、それを一言で表す言葉はこの世界にはまだ存在していない。

 

我々の世界で表現するなら近い言葉がある。

キュートアグレッションというやつだ。

竜の知能について

竜は時々、狐のように雪に頭を突っ込んでいる姿が確認される。

長年この行動は謎に包まれていたのだが、最近、東大陸の人々が好んで食べるストロガニーナを真似して雪の下に獲物を貯蔵していることが判明した。

 

熊と違うのは、食糧保存よりは凍らせたら食感が変わることを重視しているということである。まるで料理を楽しむかのように。

 

彼らは非常に頭が良く、家畜は人の財産であり傷つけると報復されることが分かっているので(囲いの外に脱走していない限りは)襲わないし、武装した人間がいそうな大都市には近づこうともしない。

竜のペット化について

物珍しさから竜のペット化需要はあり、特に西大陸の富裕層の間でそうした傾向が高まっているものの、デカくなる&食費がかさむ&散歩が三次元、と良いことが全然ないのでオススメできない。

というより条例で世界的に禁止されているので、ペット竜を連れていたら確実に犯罪者である。

 

竜のペット化が禁止されているのは、繁殖能力が低くすぐ生態系に影響が出てしまうということが一番の要因ではあるのだが、比較的捕獲しやすい子竜を狙おうものなら親竜が地の果てまで追ってくるからである。

竜の食欲について

竜は何でも食べる。人でも岩でも廃棄物でも、それこそ蒸気自動車でも。東大陸で車が流通しにくいのは山岳地帯であることも関係しているが、主に竜のせいである。

生態の項目でも解説したように、彼らは霊素さえあれば基本的に死ぬことはないので、食事において重要視されるのは栄養ではなく、食感。あと腹に溜まるか=燃料になり得るか、である。

ついでに言うと食事量もそれほど重要ではなく、一般的な熊が一日13kgほどの食事を必要とするのに対し、彼らは体格に反して5kg以下の食事量でも十分生きていけるし、なんなら数ヶ月の絶食にも耐えられる。

 

ちなみに、東大陸ではヘラジカやイノシシに次いで竜が蒸気自動車及び人間との衝突事故が多い。

竜の性別・繁殖について

この世界の竜は非常に特異な生態を持ち、「雌雄同体」「他の生物に見られる生殖行為的行動をしない」「経口摂取の食事はそれほど重要ではない」「数ヶ月の絶食にも耐えられる」以外のことはほぼ不明。

この世界の人間が観測していないだけかもしれないが。

 

進化や遺伝の仕組みも不明な点が多く、親兄弟でも似ていないケースが多い。これに関しては、親から引き継ぐのは能力が大半を占め、容姿などその他は成長の過程で経口摂取などで他者の遺伝子情報を取り込み自力でよりよい形に組み替えることができるため、とされている。

 

異常な再生能力の高さもこれに拍車をかけている。ようは角の形が気に入らなかったらいい感じの形の角を持っている竜の情報を取り込んで自分の角もそのように変化させることができるわけなのである。

よく分からないという方はとにかく摩訶不思議な生物という認識で問題ない。

(※再生能力は個体差がある)