Foodporn

ー料理屋《熊猫の大窯亭》ー

竜血のティエット・カンのポットパイ

ティエット・カンとはアラゴ人の言葉で、直訳すると『血のスープ』。

主に鳥や熊などの鮮血をスープの材料に用い、焼いた肉や野菜を加えて煮込んだもの。

その鮮やかな色合いから、慶事のメインを飾る大変めでたい料理である。

 

プロテインを豊富に含んでいるので栄養が不足しがちな東大陸では特に重要な位置づけ。

中でも竜血を用いたものは、竜を討伐した際にのみ振る舞われるので大変貴重。

竜血には栄養剤に等しい力があるため『竜血のティエット・カンを食べることができれば一年は安泰』という言い伝えがある。

 

竜血が市場に出回ると東大陸は大変な賑わいを見せるという。

 

ただ、(果たして竜血にもその危険性があるかどうかは解明されていないのだが)西大陸では生食を問題視する動きが高まっているため、基本的には東大陸の一部地域でしか振る舞われなくなっており、稀少価値が更に上がっている。

 

その一方、雰囲気だけでも竜血のティエット・カンを楽しもうという動きはあり、血ではなくトマトや火炎菜(ビーツ)でスープを作ったものも存在する。

実はそれがこの大陸におけるボルシチの起源だったりするのだが、西大陸の方ではボルシチの方こそ起源だと言われていたりする。

 

ちなみに、西大陸人はどちらが起源説かについてはけっこう敏感なのだが、東大陸人はほとんど気にしておらず、ティエット・カンもボルシチもどちらも美味しくいただける。

強めの酒と共にいただくのが通の楽しみらしい。

チーズ・ガルシュカ

ガルシュカとは西大陸の言葉で柔らかい卵麺のこと。パスタの一種と思われやすいが、パスタより柔らかく、一口サイズなのが特徴。

刻んだチーズと混ぜてトロトロのアツアツになるまで煮込んだこのチーズ・ガルシュカは特に西大陸南部発祥の名物料理として有名。

 

肉のミンチが入ったものやほうれん草が入ったもの、色々なバリエーションがあるが、ガルシュカの代名詞と言えばこれ。

短く不揃いな形のガルシュカにチーズがよく絡み、グラタンのような味わいが生まれることで有名。

 

酒にとてもよく合うので西大陸南部では麦酒と一緒にいただくのがベター。

地元では寒い時期に開催されるパーティーのメインディッシュとしても有名。

 

ちなみにガルシュカという名は、昔は手やスプーンで生地をちぎって作っていたのだがその形が小さなボタンに似ていることに由来する。

今は穴がたくさん空いた専用の調理器具で作るのが主流である。

ストロガニーナ&コケモモのモルス

ストロガニーナとは凍らせた魚肉or牛肉を刻んで盛り付け、胡椒をふっただけの非常にシンプルな料理。刺し身やカルパッチョを凍らせたようなもの。

シンプルだが、シャリシャリとした食感の後に肉の旨味がとろりと溶けて広がるため、大変クセになる。

 

これが酒によく合うため、東大陸の人々はウォッカと共に召し上がるのが日々の楽しみ。

酒が飲めない場合はモルスが好まれる。モルスとは果汁の水割りで、特にコケモモのモルスは風邪に効き、渇きを癒し、強壮作用を備えることから大陸全土で愛飲されている。

夏場にぴったりの組み合わせである。

 

なお、西大陸では生肉の扱いには規制がかかるため、生牛肉を用いる際は軽くローストビーフにしてから凍らせたものが流通しているが、東大陸の人々に言わせてみればそれは『邪道』らしい。

また、味付けには植物油・粉末マスタード・トナカイの血から作った特製ソースをかける場合もある。

 

ちなみに『ストロガニーナ』とは東大陸の方言である『ストロガット(薄く削る)』に由来する。

日本で言うとアイヌ料理の『ルイベ』が一番近いかもしれない。

ツォイ・ワン&馬乳酒(アイラグ)

平たく言うときしめんの焼きうどん。ダーナ人伝統の家庭料理の一つ。

ダーナ人は塩だけで味付けする素材勝負の料理が多く、これもその一つ。手打ち麺を作って羊肉や野菜と共に蒸す、あるいは焼く素朴な料理だが、肉汁が染み込むので味はけっこう濃い。

非常に身体が温まるので冬場には最高のご馳走となる。

 

ダーナ人は料理は大きく分けて『赤い食べ物』と『白い食べ物』でできているという考えを持っており、赤が肉、白が乳製品を指す。

肉食中心の彼らにとって貴重なビタミンやミネラルを補うため、ダーナ人はこれを馬乳酒と共に食すのが定石。

 

酒とは言ってもアルコール度数は極めて低く、栄養も豊富なため、ダーナ人は赤ん坊から年寄りまで馬乳酒をよく飲む。彼らにとってはヨーグルトに近い存在といった認識で、暑さの厳しい季節には主食にもなるという。

ちなみに、成人ダーナ人は一日に平均して1.5リットルほど飲むのだとか。

 

ただ、馬乳酒はかなり酸味が強く独特の臭みがあり、苦手とする者も多いことから、ダーナ人が他種族の客をもてなす際は別の飲みやすい飲料を提供してくれるためそこは安心してほしい。

なお、ダーナ人は大抵、牛の皮や胃でできた容器に馬乳酒を携帯しているので口にすることはそう難しくない。

 

※ちなみに、どちらもイザヤの大好物。 イザヤに作らせたら最高に美味いものを用意してくれるし、ツォイ・ワンに関しては鍋奉行ならぬ麺奉行と化す。

ルスニキエ式オムレツ

この大陸のオムレツは少々風変わりである。我々がまっさきに思い浮かべるようなオムレツも存在するが、それはあまり一般的ではない。

最もポピュラーなのは、よく泡立てた卵を深めの皿に流し入れ、蒸らして作るスフレ状のオムレツ。

茶碗蒸しに近いものである。

 

具は何も入れず卵本来の味や出汁を楽しむものもあるが、入れるならポルチーニ茸のソースが好まれる。

肉厚で噛みごたえがあり、味わいもよく、乾燥させることで醤油のような独特の強い香りを発するポルチーニ茸と、ふわふわのオムレツが絶妙に合うのである。

 

ただ、ポルチーニ茸は少々お高い。

なぜかというとポルチーニ茸は栽培に成功しておらず、天然物しか流通していないからである。

 

そのふわふわの見た目と食感から綿雲に例えられることもあるが、歴史は古く、実はほんの少し前まで王族のおもてなし料理として好まれたという記述が残されている。いわば高級料理なのである。

 

ちなみに、イラストはごく一般的な鶏卵のオムレツであるが、世の中にはグリフォンや竜の卵を使用したオムレツも存在するとかしないとか。

入手難易度の高さが広く知られていることから、そうと偽った偽オムレツも少なからず出回っているものの、真偽を確かめるには実食する他ないのが現状である。

竜尾肉ホルホグ

アラゴ人の伝統料理の一つ。とれたての羊肉の塊を野菜、塩、香辛料と共に大きな缶に入れ、更に焼けた石を交互に詰めて豪快に石焼にしたもの。蒸し焼きとの合わせ技。

竜尾肉を使う場合は特に『竜尾肉ホルホグ』とも呼ばれ、希少価値から宴のご馳走扱いされている。

 

一般的に牛乳缶が調理器具として使われるが、竜尾肉を使う場合は分厚い肉に通る火力と、それに絶えうる強靭な器具が必要。

このため調理器具を揃える段階から高い技術を必要とするため、竜尾肉ホルホグに関しては、基本的に専用の巨大な竈があるアラゴ人の生まれ故郷でしかお目にかかれない。

 

食べるにあたっては「骨についた肉まで残すことなくナイフで削ぎとる」という礼儀がある。大地に血をこぼすことはタブーとされているためで、血の一滴もこぼすことはなく腸詰めにされ、無駄がない。

また、調理の際に出る肉汁はスープとして飲む他、麺料理の出汁として使うこともある。

 

ちなみに、調理後に残る石はアラゴ人の間で、両手で転がすと疲労回復や治癒の力があると言われお守り扱いを受けている。

もしアラゴ人の宴の席に呼ばれ、ホルホグに使った焼けた石を手渡されたら、貴方はきっと彼らから多大な信頼を得て『友』と認識されたと言っても良い。

丸ごとマンダリンのタルト&マフィン

マンダリンとはみかんのこと。味は温州みかんに近い。

年の瀬は貧富・老若男女問わず家や家族で過ごす慣習が根付いている、いわゆる正月に近い慣習が根付いているこの大陸では、『年の瀬はマンダリンの匂いがする』ほどマンダリンはメジャーな果物。

 

年末は何キロも買いだめする家庭も少なくないほど、マンダリンはこの国にとって欠かせない。

 

なぜかというと、冬にはほとんどの果物が育たたなくなるこの大陸においては貴重な栄養源だからでもあるし、特に東大陸ではこういう時しか贅沢できない家庭が多いという事情も関係しているため。

 

おせち料理のような文化もあり、色々な種類のサラダをたくさん作って皆で食べるのが定番。マンダリンを使ったお菓子や料理で食卓を彩り、お酒を飲んで派手に祝うのも定番で、特にマンダリンをまるごと使った贅沢なマフィンやタルトは子供たちも大好き。

その見た目から『宝石のタルト』とも言われる。

 

ちなみに『年の瀬の一日が次の一年を決める』という考えがあることから、この時期はほとんどの家庭が豪華なパーティーを催す。

『寒さのせいで吹き出したそばから樹の形に凍ったシャンパン』に飾り付けをしてクリスマスツリーのようなものを作って玄関を飾ったり、花火を打ち上げたり。そして各国の代表者がお祝いの言葉を放送したり、日付が変わる瞬間を狙って願い事をしたり、お年玉のようなものを配ったりと、とにかくめちゃくちゃ盛り上がる。

ついでに言うとFNS歌謡祭のような番組もあり、皆でマンダリン尽くしの食卓を囲みながら見るのである。

鬼岩のシュークルート

鬼の顔のように険しい断崖を縫うように市街地が形成された東大陸の観光名所の一つ、鬼岩都市発祥の名物。ザワークラウトを用いた煮込み料理。

ザワークラウトをソーセージやベーコン、豚のすね肉などと共に煮込んだ、シンプルながら美味い料理。

 

シュークルート自体は各地で似たようなものを見かけるが、鬼岩都市のものは特に周辺で採れる『鬼岩ジャガイモ(本来は売り物にならないがもったいないから使用する歪な形のジャガイモ)』を、地元産の白ワインで丸ごと煮込むことからその名がついている。

ザワークラウトは酸味の効いたほどよい酸っぱさで、これが塩気のある肉とよく合うため酒が進むことで有名。

 

お酢料理を食べる日本人にはおそらく馴染み深い味。

寒い冬、鬼岩都市周辺では葡萄酒と共に大人数で和気あいあいと食べるのが定石である。

ピーラッカ

いわゆるピロシキ。大陸中に流通している惣菜パン。

小麦粉を練った生地に色々な具を詰め、オーブンで焼くか揚げて作るもの。

 

キッチンが油で汚れるのを嫌う者が多いことからこの大陸では焼くのが一般的。食べる時に手がベタつかないし、胃もたれしないし、冷めても美味しい。

 

中に入れる具は挽肉・レバー・各種魚肉・ゆで卵・チーズ・米・カーシャ(蕎麦の実などイネ科の穀物及び豆類の粥)・ジャガイモ・茸・キャベツなどなど。

お茶のお菓子として甘く煮たリンゴやジャム、果物を詰めたものもある。

 

間食として食べたり、ボルシチなどの汁物に添えたりお茶の時間に食べたりと色々。屋台料理としても人気で、縁日ではクロッコルと共に定番となっている。

ちなみに、魔塔都市ではこれから着想を得たカレーパンが最近流行っている。

雪肌竜の息吹(ドゥラン・モラーダ)

魔塔都市近郊の穀倉地帯で栽培されているアウィセニス米を原料としたどぶろくの一種。

粕を取り除いた絞り汁(酒)にまた原料を入れ、酒を作り、また粕を取り除き、そして原料を入れ…という工程を八回に渡って繰り返すことから『八重雲酒』とも呼ばれる。

 

アルコール度数は低め。クリーミーでとろっとしており、炭酸の中にほんのりと甘味のある軽快な味わいで飲みやすい。

だが、実は製造の過程で竜に噛んでもらい糖化させることでアルコール化させる『口噛み酒』の工程を踏まえていることは意外と知られていない事実である。

 

竜に噛んでもらうのは色々理由があるが、竜の体内成分が人間に近く、健康促進・不老長寿の効果が見込めるからとされている。本当かどうかは分からない。

ただ、竜と密接な関わりを持つ東大陸ではそれだけで付加価値が高く、宴や祭事には欠かせない品ということもあってとても伝統がある。

 

飲酒する際はお湯割りやカクテルベースにするのが一般的で、魔塔都市ではフルーツジュース割やソーダ割が人気。

特に苺の果汁飲料や果肉を用いたカクテルは『竜の血(ファンタスティック・ロッソ)』と呼ばれ、食感と程よい酸味・甘味から男女問わず飲みの席の定番として有名である。

代用珈琲

人類連邦は国費を圧迫する軍事費を捻出するため、近年、珈琲と煙草と酒に対して高い税金をかけた。

食料品や嗜好品の大半を東からの輸入に頼っており、特に人気の高いこの三種に流れる資金が問題視されていたことも関係しているのだが、庶民としてはたまったものではない。

 

しまいには珈琲豆の焙煎が認可制になってしまい、少ない娯楽を奪われた市民は知恵を絞った。

 

そうして登場したのが代用珈琲。珈琲豆以外から珈琲を作ることで法の目をかいくぐるわけである。

売り物にも珈琲とは一切書いていないため、これなら取り締まられることはない。今のところは。

 

チコリーの根を燻して作ったものが有名だが、他にも麦芽・大麦・ライ麦・イチジク・どんぐり・タンポポ・海草なども存在する。本物の珈琲には劣るという評価が多い一方、珈琲に含まれるカフェインが苦手な人でも飲めるということでじわじわと愛飲者が増えているのも事実。健康にも良い。

 

ちなみに、こうした嗜好品の密輸に走る者は一定数存在するし、それを取り締まる部隊も存在するわけなのだが、これは機械兵器の流入によりリストラされてしまった軍人の天下り先という側面を持ち、歩合制なのもあってそれはそれは熱心に働くことで有名なので、市民からの評判はよろしくない。

北海カジキと鮭のユハ

ユハとは東の田舎の方言で『スープ』のこと。

主に東大陸北部などで供される郷土料理。サケ・スズキ・サワラ・カジキ・チョウザメなどをふんだんに用いる魚介鍋で、スープの出汁も小魚でとる。

一種類の魚のみで作るものもあるが、地元では多くの魚を使ったユハが定番。

 

魚がメインなので野菜は少なめにするのが通例。また、あまり煮すぎると切り身が煮崩れし、魚の味が損なわれることから毛嫌いされている。

地元では獲ったばかりの魚を洗い流してそのまま水に入れて煮込み、ハーブやスパイスで味つけするのが最も簡単な調理法として伝わっている。

 

なお、大人が作るユハは味付けの際に調味料としてウォッカを加えるのだが、これは質が良いとは言えない川や湖、海の細菌をやっつけてくれるだけではなく、魚の泥臭さを酒で飛ばし、魚の身はより白くなり崩れにくくなるという。

決して酒飲みの悪癖ではない。

 

東大陸の大半の地域では、ユハのスープを作る際に用いた魚のアラや野菜は濾された後、家畜の飼料として利用されるのでムダがない。

琥珀の夢(アスプリ・エール)

東大陸の奥地にあるという『陽が沈まない岬』。いわゆる白夜の地域には白樺の群生地があり、一年を通して光を浴び続けるその地の白樺から、雪解けの時期だけ採取できる樹液は極上の甘味だという。

 

陽の光の付加価値&効力はさておき、焔節(夏)に開花、開葉する白樺は厳冬期の間に栄養素と水分を隅々まで蓄えているので、木の幹に傷をつけると豊潤な樹液が溢れ出す。

その甘い水のような優しい口当たりから飲料の味付けとして人気で、特にウイスキーと合わせたものは『琥珀の夢』と呼ばれている。

ウイスキー独特の苦味を樹液のまろやかさが緩和してくれ、大変飲みやすいという。

 

また、甘味料の希少価値の高い付近の集落では貴重な栄養源としてもてはやされており、垂れた樹液が氷柱として冷えて固まったものはそのままおやつとして食卓に並ぶ。

ちなみに蓮の開花時期とも被るので、蓮が名産品となっている《幻灯都市》と呼ばれる都市ではこれを蓮の葉の器に流し込んで飲む『蓮酒』という文化がある。蓮酒自体は他の酒でも楽しめるのだが、「限られた地域の限られた時期にしか生産できない」という言葉に人は大変弱い。

 

樹液の産地から蓮酒の開催地まで距離があり運搬手段も限られることもあって高級酒として名高く、時期になると蓮酒を目当てに都市を訪れる観光客が絶えない。

蓮の青い香りが酒の香りと調和する蓮酒は独特の清涼感が得られるという。

クロッコル

いわゆる肉まん。塩漬け肉と玉葱をジャガイモで作った生地で包んだお団子状の料理で、大陸各地で見かける定番料理。

肉まんと違うのはジャガイモを生地に用いるため、ふわっというよりもちっとしてしっとりしているところ。

 

百味胡椒(オールスパイス)という、シナモン・クローブ・ナツメグの三つの香りを併せ持ち、独特な風味を持つ香辛料で味付けされた具を一口サイズに丸く包み、熱々の茹でたてにジャムをつけていただくのが定番。

溶かしバターや生クリームも合うが、屋台料理としては塩だけかけたものが人気。

 

不断草とは平たく言えば「カラフルなほうれん草」。季節に関係なく栽培できるのでこちらも大陸各地で見かける。

生では少々固いが青臭さがなく、甘味のあるクセのない味としゃきっとした食感からサラダやスープ以外にも色々な方法で美味しくいただける。

見た目の鮮やかさで食卓を彩るだけでなく、鉄分やカルシウムなどの栄養分も豊富。

 

一般的に具となる肉には豚肉が用いられるが、竜の尻尾肉のクロッコルは肉の調達難易度から珍品扱いを受けている。

東大陸ではその辺の料亭や屋台で軽食感覚で食べられ、食べ歩く職人や学生の姿をよく見かけることができるが、西大陸では高級料理という認識である。

竜尾肉のシャウルマ

いわゆるドネルケバブのこと。

シャシリク(串焼き肉)と並んで東大陸では定番の屋台料理の一つとして知られているが、中でも竜の尻尾肉を使ったシャウルマは竜の棲息区域の付近の都市でのみお目にかかれる稀少な郷土料理である。

 

普通の串焼き肉と違うのは、長時間漬け込んだ肉を使用するところ。竜肉の他にも、新鮮で脂身のついた肉(牛肉・豚肉・羊肉・鶏肉・チョウザメなどの魚肉)を程度な大きさに切り分け、刻んだタマネギ・ニンニク、お好みでパセリ・ローリエも加え、塩・コショウ・レモン汁などで調味した葡萄酒に一晩あるいは一昼夜漬け込む。

それを串に刺して炭火焼にしたり、オーブンやフライパンなどで焼いたりして供するのである。

 

特にこのシャウルマ形式のものは、見た目の豪華さもあってかなりの人気を誇り、ハイキングや野外パーティーのご馳走として人気である。

 

ちなみに、竜の肉は一般的に、歯ごたえがあり脂肪が少なく、上質な鶏肉のような味がするとされる。

まぁ、竜肉を用いる場合は『武装した大人が千人がかりでようやく仕留められる』と例えられる竜に立ち向かわなければならないという問題があるのだが。

ただ、この世界の竜は自己再生能力が非常に高い上に尻尾はトカゲのように自切可能で、何度でも自己再生し、時間が経てば再生当初は軟骨だったものがしっかりとした骨になる。 このため対価となり得る供物と竜の気質及び機嫌次第では、尻尾くらいなら提供してくれるかもしれない。

 

しかし、そうなると乱獲の対象になるのは明白で、己の尻尾を自切して生活の足しにする個体が一定数存在するのはもちろんのこと、若ければ若いほど脂が乗っていて美味であることから世界各地で無残に尻尾だけ狩られる子竜が後を絶たない。

もちろん親竜は激昂するので大変危険。

 

また、何度でも再生可能とは言ってもそれなりにエネルギーを消費する上、若く未熟な個体ほどそのエネルギー消費が元で体調を崩してしまうことがある。 

更に、幼いうちに尻尾を切られてしまうと正常に飛行することができなくなってしまうことが判明したため、現在多くの地域では生後10年以下の幼竜の尻尾切りは厳罰対象となっている。

シャウルマ以外にも竜肉を堪能する方法としては、尻尾肉を豪快に輪切りにしたものを塩コショウなど簡単な味付けだけ施してステーキにする調理法が存在する。

 

ただ、元となる竜の尻尾の大きさに加え、火に耐性を持ち通常の火器では火が通らない・そんな大それた調理設備を整えられる場所が少ない、などなど多数の問題から、大きな料亭でもない限り滅多にお目にかかれるものではない。

 

一応、火の力を宿す竜に尾翼をフライパン代わりにしてもらうことで即興の調理が可能ではあるが、そもそも己の尾翼をフライパン代わりに使わせてくれる竜自体の希少価値が高いのが現実である。

女神の口づけ(フェリス・アリア)

西大陸の家庭料理の一つで、祝祭の定番。

平たく言えば細かく刻んだジャガイモを使ったポテトグラタンなのだが、通常のホワイトグラタンとは違ってベシャメルソースは使わず、代わりに玉葱とアンチョビ(片口鰯)を使う。

 

味の決め手はこの塩辛さと甘みのある西風アンチョビ。

塩だけではなく、各種スパイスと甘味料で風味をつけるのが西風アンチョビの最大の特徴なので、西風アンチョビ缶の汁を上からかけるだけで味付けがなされる。

更にバターの塊を散らし、オーブンで焼き上げ、水分が減りすぎている場合は生クリームか牛乳を足すことで完成に至るという、東大陸と比べれば食材が充実している西大陸ならではのなかなか贅沢な料理である。

 

ちなみに『女神の口づけ』という名の由来は、あまりにも美味しそうな匂いに誘われたどこかの神が美女の姿をとって人界に降りてきた、という逸話からきているとかいないとか。

アイントプフ

別名『農夫のスープ』。東大陸の庶民的な家庭のスープ料理の一つ。

腸詰め・ジャガイモ・ニンジン・タマネギ・レンズ豆などを入れて煮込んだもので、スープのベースはトマト・コンソメなど何でも良し。

 

東大陸の一般的な料亭で提供される安くて簡単な料理と言えばこれが定番。高級料亭ではまずお目にかかれない。

缶詰としても人気。

 

日本で言えば味噌汁のように各家庭で味の異なるもので、このため他所でアイントプフを作ると必ず味付けで喧嘩になる。

黒パンサンド

東大陸を中心に大陸中に流通しているパン。ダーナ人は『フレープ』、アラゴ人は『ルイスレイパ』と呼ぶ。

小麦パンとは違って生地に酸味があり、また小麦パンと比べると膨らみは悪いが硬くて密度が高く、噛みごたえ・食べごたえがあり腹持ちが良い。更に麦の濃厚な旨みを味わえることが、小麦パンとの大きな差として挙げられる。

 

小麦パンよりビタミン・ミネラル・食物繊維が多く含まれ、健康に良いことも特徴。日持ちもするため保存食としても好まれている。

 

ただ、黒麦パン=黒いというのは正確には同義ではない。黒くなる理由は精製度の低い粉を使用するためで、精製度の高いものであればあまり黒くない黒麦パンも存在する。

しかし、精製度の低い粉を使用すると栄養価が高く、更に麦の旨みを味わえるパンに仕上がるのもまた事実。

 

《愛し児たちの島》には小麦だけのパンはもちろん小麦と黒麦を混ぜたパンも存在するのだが、この混ぜ具合によって呼び方が細かく定められている。呼び方は以下の通り。

 

・ライ麦が10%以下のもの……ヴァイツェンブロート

・ライ麦が11~50%のもの…ヴァイツェンミッシュブロート

・ライ麦が51~89%のもの…ロッゲンミッシュブロート

・ライ麦が90%以上のもの……ロッゲンブロート

 

東大陸では、この黒麦パンを1週間から数ヶ月おきにまとめて焼いて貯蔵しておく習慣があるのだが、古くなったものは小刀も通らないほど硬くなるため、あらかじめ適当な大きさに切っておくのがベスト。

また、硬くなっても水や酒やスープに浸して柔らかくして食べたり、粥にしたりと色々な用途がある。

 

なお、西大陸では貴族階級が小麦パンを好んで食べていた歴史的背景から、柔らかい白パンは上等で硬い黒パンは下等という価値観がいまだに強く根づいているのだが、保存食として携帯する飛空士の存在の影響で近年では少しずつ見直されつつある。

 

作り方は簡単。黒パンを入手したら某お料理サイトを参考に好きな具を挟もう。

ザワークラウト

キャベツの漬物のこと。それを使った料理も指す。空気中の乳酸菌などによる醗酵から酸味が生じるものであり、酢などは一切加えないところが一般的な漬物との違い。

キャベツ自体に豊富なビタミンが含まれており、加熱しないことでビタミンが壊れず、更に乳酸発酵によってより多くのビタミンが生成されることから、果物が滅多に手に入らない寒冷地では貴重な栄養源と言える。

なお、東大陸の人々との連想性が高い料理でもあることから、東大陸の印象が悪い一部地域では蔑称として『キャベツ野郎(クラウト)』という言葉が使われるところもある。

ルタパガ&ジャガイモ

寒冷な《愛し児たちの島》では食材が不足しがちであるため、保存に重点を置いて工夫が凝らされているのが特徴。 特に東大陸ではマリネやザワークラウト、腸詰めなどの保存食が発達している。

また、中小の諸邦がまとまっている上にそれらが東西南北に広がり、風土も農産物もバラエティに富んでいるため、同じ料理でも数多くのバリエーションがあり、地方によって名前も細かい具材も異なる。

 

特にジャガイモは不作の危険がつきまとう多くの地域の人々の飢えを満たしている。

東大陸ではジャガイモを使った料理が必須のメニューに数えられ、「女の子はジャガイモでフルコースの料理が出来るようになれないとお嫁にいけない」という言葉があるほど。

もっとも交易が充実してきた現在、今なお毎日ジャガイモばかり食べているということはないのだが。

 

大陸全土を通して食事の中心になるのは各種野菜のピクルス、保存された肉や魚の加工品及び調理品。魚料理などは白身魚のフライ、サバやウナギの燻製が有名所で、内陸部ではコイやマスといった淡水魚が養殖され旬に応じて食べられている。また、厳しい寒さに見舞われる東大陸北部ではジビエや煮込み料理、焼き物が主流である。

 

ルタパガとは『ニープ』、『スウィード』とも呼ばれるもの。カブに似ているが別種。

ジャガイモと並ぶ著名な野菜の一つ。

果肉は引き締まっていて固く、加熱するとジャガイモとキャベツとかぶを合わせたような味わいで、ほんのりと甘みも感じる。

 

ジャガイモの種が発見される前には庶民の重要な栄養源となっていたのだが、100年ほど前に起きた大陸規模の大飢饉をこれでしのいだルタパガの冬》を思い起こさせるためか、現在は不人気となっており、生産量もジャガイモに押されてじわじわ減っている。